ドンキホーテ→ドンキ・ホーテ

正しくは、Don Quijoteなので、ドン・キホーテ

日本人が区切り方を間違えやすい言葉

https://twitter.com/yoshimotolumine/status/787508211611860992

 ドン・キホーテといえば、セルバンテスの小説のタイトル、そしてその主人公の名前である。
 この小説の翻訳版はいくつもあるが、どのバージョンであっても、タイトルや主人公名はきちんと区切って表記されている。少なくとも、図書館で片っ端から確認してみた限り、例外は見つからなかった[1]
 文学事典の類でも、確認した限りでは「ドン・キホーテ」と例外なく中点つきで表記されていた[2]
 文学事典類以外の本で言及される場合であっても、次のように「ドン・キホーテ」と区切って表記されることが多い。

(1) ドン・キホーテが風車を巨人と間違えて立ち向かう、あの有名な場面で、勇者は、従士サンチョ・パンサと次のような会話を交わします。 (「スペイン語の贈り物」 福嶌教隆 現代書館 p. 45)

(2) そもそも私は以前から、贋作ドン・キホーテ事件について、なんと面白いなりゆきだろうと思っていた。 (「ドン・キホーテの末裔」 清水義範 筑摩書房 p. 53)

(3) セルバンテスの『ドン・キホーテ』は、スペインにおけるルネサンスの代表作として、現代も読み継がれている。 (「知識ゼロからの世界史入門 2部 近世史」 菊池陽太 幻冬舎)

(4) 敷地内には『ドン・キホーテ』の作者セルバンテスの没後300年を記念して建てられた彫像と、それを守るようにしてドン・キホーテとサンチョ・パンサの銅像が立つ。 (「るるぶスペイン'14~'15」 JTBパブリッシング p. 57)

(下線は引用者によるもの)

 さらに、現代日本語書き言葉均衡コーパスの検索結果でも、中点なしが52件に対し、中点ありが124件と、中点ありの方が多い。

 このように、「ドン・キホーテ」はきちんと区切って表記されることの方が多い。セルバンテスの小説を読んだことがなくても、タイトルを知っているなら、「ドンキ・ホーテ」などという誤った区切り方をしないはずなのだ。

 では、上で引用した例のように、「ドン・キホーテ」を「ドンキ・ホーテ」と勘違いする人が大勢いるのはなぜだろうか?

 それは、セルバンテスの小説を知っている人が少ないからである。

 セルバンテスの小説が知られているなら、匿名ダイアリーへのトラックバックやブックマークコメントTogetterのコメント欄などで「本にはちゃんと『ドン・キホーテ』と書いてあるだろう」などと言われてもよさそうなものだ。だが、実際はそうではない。明らかにセルバンテスの小説に言及していたコメントは1件しかない。これはすなわち、セルバンテスの小説があまり知られていないことの表れである。「ドン・キホーテ」といえば、ディスカウントストアの方しか思い浮かばない人が多いのだ。

 なお、ディスカウントストアの「ドン・キホーテ」も、正式な表記には中点がある。だが、「ドンキ」という略称などのせいで、店名の元ネタを知らない人は、ついつい「ドンキ・ホーテ」という誤った区切りを思い浮かべてしまうのだ。

 実際、先ほど言及した現代日本語書き言葉均衡コーパスの検索結果を細かく見てみると、ネット上(少なくとも2005年の「Yahoo! 知恵袋」と2008年の「Yahoo! ブログ」)では、「ドン・キホーテ」と区切って書かれることより、「ドンキホーテ」と区切らずに書かれることが多いことがわかる。なるほど、これでは区切る箇所がわからない。セルバンテスの小説を知らない人が、「ドンキ・ホーテ」という誤った区切りを思い浮かべてしまうのも無理はない。

 なお、具体的な用例数は以下の通りである[3]

紙媒体の用例数ネット上の用例数
中点あり・店以外112件2件
中点なし・店以外3件7件
中点あり・店5件5件
中点なし・店2件40件



[1] 以下を確認。

「ドン・キホーテ」 永田寛定:訳 岩波文庫 1948年
「ドン・キホーテ」 牛島信明:訳 岩波文庫 2001年
「ドン・キホーテ」 相田由・大木文彦:編訳 白水社 1967年(1998年復刊)
「ドン・キホーテ」 相田由:訳 晶文社 1985年
「ドン・キホーテ」 相田由:訳 ちくま文庫 1987年
「ドン・キホーテ」 牛島信明:編訳 岩波少年文庫 1987年
「少年少女世界文学館21 ドン=キホーテ」 安藤美紀夫:訳 講談社 1988年
「Newton Classics 35 ドン・キホーテ」 サミュエル・エイブラムソン:翻案 中川麗:訳 Newton Press 1998年
「ドン・キホーテ」 カースティン・マカイヴァー:文 講談社英語文庫 2000年

[2] 以下を確認。

「ポケット世界名作事典」 平凡社 1981年
「欧米文芸登場人物事典」 大修館書店 1986年
「架空人名辞典 欧米編」 教育社 1986年
「古典・聖書・文学基礎知識事典」 北星堂書店 1992年
「集英社世界文学事典」 集英社 2002年

[3] 検索結果に出てきた文章だけではどちらとも判断できないものは、「店以外」に分類した。