「左巻き」という言葉がある。この言葉は、辞書では次のように解説されている。

ひだり‐まき【左巻(き)】

1 左の方へ巻くこと。時計の針の回り方と反対に巻いていること。
2 《つむじが左に巻いている人は頭が悪いという俗説から》頭の働きが鈍いこと。

デジタル大辞泉 2018年7月


ひだりまき【左巻き・左巻】

1 時計の針が動く方向と反対に巻くこと。また、そのもの。 ⇔ 右巻き
2 知能が足りないこと。頭がおかしいこと。また、その人。

大辞林 第三版

 「広辞苑 第六版」(岩波書店 2008年)、「明鏡国語辞典 第二版」(大修館書店 2010年)、「集英社国語辞典 第3版」(集英社 2012年)、「岩波国語辞典 第7版新版」(岩波書店 2011年)、「新選国語辞典 第九版」(小学館 2011年)など、他の辞書でもおおむね同じように解説されている。

 上の2つの用法のうち、2の「馬鹿、変人」という用法は、決してそれほど古いものではない。例えば、「日本国語大辞典 第二版」に載っている初出例は1941年のものだ。
 また、2の用法は実際の用例もあまり多くない。例えば、現代日本語書き言葉均衡コーパスに収録されている1971年から2008年までの用例17件のうち、1の意味で使っているものが15件ある一方で、2の意味で使っているものは見当たらない。
 コーパスに収録されている用例のうち、残りの2つは、(1)~(2)のように「左翼」という意味で使っている。

(1) こんなこと言ってると 資本主義はダメだから共産主義が良いなんて左巻きナ声も出てきそうだから. (Yahoo! ブログ 2008年)

(2) TBSはまだ、「左巻きの人達に訴え」て、視聴率が上がると思っているのでしょうか? (Yahoo! 知恵袋 2005年)

(下線は引用者によるもの)

 この用法は辞書に載っていない。そして、用例がどちらもネット上のものであることからわかるように、これは元々ネットスラングである。しかしながら、このネットスラングは、(3)~(4)のように、ニュースサイトなどで説明なしに用いられるほど広まっている。そして、これを誤用と批判する声は、なくはないが、決して多くもない[1] [2] [3]

(3) 日本のこころを大切にする党の中野正志幹事長は25日の記者会見で、18日の党首討論での憲法9条の平和主義をめぐる民進党の岡田克也代表の発言に関し「民進党は昔の社会党以上に左巻きになった」と述べた。

「民進党は昔の社会党以上に左巻き」日本のこころ・中野幹事長 2016年5月


(4) 憲法改正で自衛隊整備など保守的な主張を繰り返し、ときに市民運動を「左巻き」と批判する一方で、権威主義を徹底的に嫌う。

「灘高校1979年卒」の神童は、大人になってどうなったのか? 2017年9月

 なお、上で「ネットスラング」と述べたが、(5)のような紙媒体での用例もある。

(5) 彼らが当選したのは、共産党ではなくて、旧社会党系の左巻き連中の票の力である。

「一定不易」 加地伸行 (「月刊Hanada」2018年1月号 飛鳥新社 2017年11月 p. 19)

 このように、「左巻き」を「左翼」という意味で使う例は、今や大真面目な文章でも当たり前に見られるほどに定着してしまっている。それでは、この用法はいつごろ誕生したのだろうか。

 調べた限りでは、「左巻き」を「左翼」という意味で使う例は2004年9月までさかのぼることができる。

(6) 勉強するのはあなたです。旧石器時代から歴史をやり直して下さい。よっ左巻き。 (Yahoo! 知恵袋 2004年9月20日)

(7) 馬鹿で時代遅れの左巻きに比べればどう考えても日本人の正論の方が正しいのですから静かな口調で正々堂々と反論すればいいのです。 (Yahoo! 知恵袋 2004年9月24日)

 だが、それはこの用法の誕生が2004年9月ということではない。説明なしに使われていたことから、「左巻き」を「左翼」という意味で使うことはもっと前からあり、2004年9月の段階ではすでにある程度定着していたと考えられる。


[1] Yahoo! 知恵袋
[2] 今日は「ことば」が大テーマです コメント欄
[3] ネトウヨが日本語の誤用で大恥さらす