男性がかわいいワンピースを着ても、いい。 性別や体型にとらわれない新ブランドの思い

 この記事に対する反応ツイートがまとめられているが、判で押したような賛辞だらけで――そういうのを選んでまとめたのだろうが――気持ち悪い。
 さて、数ある女装指南書や指南サイトを見ればわかるように、女装をする際に重要なポイントは、体の男性的な特徴を隠した上で女性的な記号を身につけることである[1]。ハフィントンポストの記事で取り上げられているブローレンヂの商品は、男性的な特徴を目立たせるのではなく、その反対、まさに、「男性的な特徴を隠す」ことを売りにしたものだから、男性ファッションの新たな次元などではなく、女装用品そのものである。
 私自身は細身なので、女装しようと思っても、服が小さすぎて困ることはない。だが、女装趣味者が皆痩せているわけではない。恰幅のよい人も多い。男性サイズの女装用品自体は前からあるが、そのラインナップは少ない[2]。恰幅のよい女装趣味者には、この手の商品は痒い所に手の届くものであろう。

 だが、そうであっても、この記事に対する金太郎飴のような反応が気持ち悪いことに変わりはない。

―松村さんは「性別や体型問わず、かわいい服を楽しんでほしい」というコンセプトを掲げ、ファッションブランド「blurorange(ブローレンヂ)」を立ち上げました。

男性がかわいいワンピースを着ても、いい。 性別や体型にとらわれない新ブランドの思い

 「体型にとらわれないファッション」というと、まず思い出すのは「大きいサイズの紳士服」というキャッチコピーで大柄な男性向けの服を取り扱っている店だ。洋服のサカゼンである。サカゼンはまた、2016年9月に開催された太った男性向けファッションショー「東京ポッチャリコレクション」の協賛企業である。このファッションショーに際して、サカゼンの社長は「いつか太った方を、かっこ良くしたいなとずっと思い続けて、やっと実現できました。」とコメントしているが、これらのイベントを称賛したり、社長の発言に感動したりする声は小さい[3]

最近わかったんですけど、私は多分服を作りたいんじゃなくて、「どんな服を着てもいいんだよ」っていう、そういう世の中を作りたいんですよね。

男性がかわいいワンピースを着ても、いい。 性別や体型にとらわれない新ブランドの思い

 「どんな服を着てもいいんだよ」っていう世の中を作る先駆けとなっているのは、セーラー服おじさんを始めとする、奇抜な恰好で街に出る人々だ。
 だが、セーラー服おじさんに同様の賛辞が向けられることはない。親しまれ、愛されてはいるようだが、あくまでも変わりものの枠に入れられている。

 それでは、なぜブローレンヂは称賛され、サカゼンやセーラー服おじさんは称賛されないのか。

 十中八九、ブローレンヂを称賛する人は、これを社会福祉の問題ととらえているのだろう。つまり、ブローレンヂの商品を、おしゃれや趣味の品ではなく、トランスジェンダー者の救済手段と考えているのだ。だから、社会福祉とは縁遠そうな「大きいサイズの紳士服」やセーラー服おじさんには感動しないのだ。

アパレルがLGBTに理解を示すって言ったら、その人たちが求めている服を作るところやろ、ってめっちゃ単純な話です。

男性がかわいいワンピースを着ても、いい。 性別や体型にとらわれない新ブランドの思い

 この言葉に感動している人は多いようだが、次のように改変したら感動する人が激減するであろうことは目に見えている。

アパレルがDEBUに理解を示すって言ったら、その人たちが求めている服を作るところやろ、ってめっちゃ単純な話です。

 実際、前述のように、DEBUに理解を示してその人たちが求めている服を作っている会社は称賛されていない。LGBTはかわいそうということになっているが、DEBUはそうではないので、DEBUに寄り添ってもいい子ちゃんアピールできないからだ。

 なお、これを社会福祉の問題ととらえているのは、SNSやソーシャルブックマークで賛辞を述べている人だけではない。元となったハフィントンポストの記事でも、松村智世氏は、ニッチ市場に切りこむ挑戦的な商売人というより、トランスジェンダー者救済のための活動家であるかのように書かれている。それどころか、松村氏自身がこの商売を「救済活動」ととらえている節がうかがえる。
 ただし、松村氏自身は、トランスジェンダー者だけではなく、単なる女装者も顧客として考えているようだ。

潜在的に、例えトランスジェンダーじゃなくても、いつも「男性」として生活しているけど、かわいい服を着たい人って絶対にいると思うんですよ。そんな「どこにでもいる男性」が女物のデザインの服を着るのも全然アリですよね、そんな時代になったらいいなと思うんです。

男性がかわいいワンピースを着ても、いい。 性別や体型にとらわれない新ブランドの思い

 女装趣味者の数は、多分、トランスジェンダー者より多い。そもそも、異性装は楽しいことなのだ。


 さて、上で「いい子ちゃんアピール」と書いたが、実際、SNSやソーシャルブックマークコメントは、いい子ちゃんアピールの場となっている節がある。「かわいそうな人々の救済」にことさら感激して見せることで、自分がいかに心優しいかを宣伝しているのだ。言うまでもなく、このような場では判官贔屓やかわいそうランキングの論理が幅を利かせ、ダブルスタンダードが横行する。虫酸が走る。

 「性別や体型問わず、かわいい服を楽しんでほしい」というコンセプトだって、「私は多分服を作りたいんじゃなくて、『どんな服を着てもいいんだよ』っていう、そういう世の中を作りたいんですよね。」という発言だって、スローガン、うたい文句として綺麗だから評価しているだけで、本気で賛成しているわけではないのだろう。本気ならば、サカゼンやセーラー服おじさんはもっと尊敬されるはずだ。


[1] 「オンナノコになりたい!」(三葉 一迅社)など
[2] 「オンナノコになりたい! もっともっと、オンナノコ編」 三葉 一迅社
[3] 「太った方を、かっこ良くしたい」サカゼン社長が叶えた夢