「東アジア人のつり目」考~非アジア人もアジア人自身も、悪印象のある相手に「つり目」のイメージを相互に押し付けあってる?

セルビアの女子バレーボールチームが「日本での大会に出場が決まった!」の意味で「つり目」のポーズをして物議をかもしました。 で、この「つり目」は、たしかに悪意、敵意を持った風刺として描かれていたけど、そのイメージの対象国(民族)が移行したり、はなはだしくはアジアの中でも押し付け合ってる?ぽいとの声も。 そんな話題のあれこれ。 カテゴリは「国際」にしました。 ツイートを使わせていただいたアカウントはこちら(※追加は除く) @maruwaruwa @HuffPostJapan @toshia1998 @lp_announce @discobullet @zuka19720821 @manatsu714 @MetaLogic_3DCG @hakoiribox @yukkuri_sion @otfsx1228 @Pv1964zxz @eye____eye @gryphonjapan @eros9527liu @JENI_L_ @tokoyo @feat34buby @nekomatu6996 @terutora1228


 つり目フォルダーが火を噴く時がまた来たようだ。

 日本の漫画に限れば、それは大嘘である。

 日本の漫画やアニメには数多くのつり目キャラクターが登場するが、これらは必ずしも醜く描かれているわけではない。それどころか、日本では、「つり目」は萌え要素とさえされており、つり目の持ち主が美しく描かれることも珍しくはないのである(図1~4)。

唯
図1 櫟井唯(「ゆゆ式」 三上小又・芳文社/ゆゆ式情報処理部)

ジャガー
図2 ジャガー(「けものフレンズ」 けものフレンズプロジェクト/KFPA)

リゼ
図3 天々座理世(「ご注文はうさぎですか??」 Koi・芳文社/ご注文は製作委員会ですか??)

ロゥリィ
図4 ロゥリィ・マーキュリー(「GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」 柳内たくみ・アルファポリス/ゲート製作委員会)

 一方で、「醜い東洋人」がつり目で描かれるかといえば、必ずしもそうとは言い切れない。例えば、「勇者特急マイトガイン」のホイ・コウ・ロウ(図5)はステレオタイプ化された中国風キャラクター、かつ悪役であり、醜い老人として描かれているが、つり目ではなく垂れ目の持ち主である[1]

ホイ・コウ・ロウ
図5 ホイ・コウ・ロウ(「勇者特急マイトガイン」 サンライズ・名古屋テレビ)

 そもそも、日本ではつり目が東洋人的な特徴と考えられているということも疑わしい。なぜなら、日本の漫画やアニメでは、西洋風のキャラクターがつり目で描かれることも珍しくないからだ(図6~7)。

ナンシー・リー
図6 ナンシー・リー(「ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン」 Ninj@ Entertainment / Ninj@ Conspiracy)

カレン
図7 九条カレン(「きんいろモザイク」 原悠衣)

 このように、日本では、「つり目」は必ずしも「醜い東洋人」を表す記号ではないのである。

 また、日本の漫画やアニメにおいて、「アジア的」であることと「醜い」ことに関連はない。

 漫画やアニメの美しいキャラクターを「西洋人的」、醜いキャラクターを「アジア人的」と見なす考え方は、決して珍しいものではない。例えば、吉村和真「近代日本マンガの身体」[2]という論文も、この考え方に基づいている。

 この論文で、吉村氏は、理想化された「西洋人」的身体と「アジア人」的身体が組み合さった例として、「銀河鉄道999」のメーテルと星野鉄郎、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の中川圭一と両津勘吉を挙げている。吉村氏は、メーテルや中川の美しい容姿を「西洋人的」、鉄郎や両津の容姿を「アジア人的」と見なしているのである。
 だが、その解釈は妥当とは言えない。少なくとも、両津については当てはまらない。
 「短足、がに股」という要素は、西洋人がイメージするステレオタイプ化されたアジア人像とも共通している。だが、顔については決して「アジア人的」とは言えない。両津は鉤鼻で彫りが深く、全体的に角ばっていて濃い顔つきだ。ソース顔かしょうゆ顔かで言えば、むしろソース顔に分類される。

 また、両津のような鉤鼻で彫りが深く、全体的に角ばっていて濃い顔つきのキャラクターは、他の作品にも登場する。例えば、「勇者特急マイトガイン」のウォルフガング(図8)や、「明日のナージャ」のゲオルグ・ハスキル(図9)だ。

ウォルフガング
図8 ウォルフガング(「勇者特急マイトガイン」 サンライズ・名古屋テレビ)

ゲオルグ
図9 ゲオルグ・ハスキル(「明日のナージャ」 原作:東堂いずみ まんが:あゆみゆい)

 両津が「アジア人的」身体の持ち主だとするならば、ウォルフガングやゲオルグも同様に「アジア人的」身体の持ち主ということになる。その一方で、ウォルフガングやゲオルグは作中で明らかにヨーロッパ風の人物として描かれている。もしウォルフガングやゲオルグが本当に「アジア人的」だとしたら、そんなキャラが作中でヨーロッパ人扱いされていることに、見ている方は大きな違和感を持つことだろう。しかしながら、「勇者特急マイトガイン」や「明日のナージャ」を見ていても、そのような違和感を抱くことはない。すなわち、ウォルフガングやゲオルグの容姿は、決して「アジア人的」ではないということだ。これは同時に、両津の容姿も「アジア人的」ではないことを意味する。これらの登場人物は標準的な美形とはかけ離れているが、それは決して「アジア人的」ということにはつながらないのだ。

 結局、吉村氏の「美しいキャラクターは西洋人的、醜いキャラクターはアジア人的に描かれる」という前提は、全くの間違いだったのである[3]


 前述のように、日本ではつり目は決してネガティブな要素ではない。そして、これは漫画やアニメに限った話ではない。現実の人間であっても、目尻がつり上がったいわゆる「アーモンドアイ」は、凛とした印象を与えると、肯定的に受け取られている[4]

 さて、この発言を見ると、日本鬼子のことを思い出す。中国人の日本人に対する蔑称「日本鬼子」をあえて曲解し、美少女キャラに仕立て上げてしまった事件だ。
 日本語の「鬼」には「強い」「情熱的」というプラスイメージもあり(例:鬼武者、仕事の鬼)、必ずしもネガティブ一辺倒な言葉ではない。そのため、「鬼子」と言われても、当の日本人にはその軽蔑の念が充分伝わらない。そのギャップから生じる誤解をわざと拡大し、中国の反日運動に大してまともに憤りを見せるのではなく、美少女キャラを提示することで怒りの向け先を失わせ、糞青どもの気分をなえさせようというのが、「日本鬼子」キャンペーンだったのである[5] [6] [7]

 セルビア選手のつり目ポーズは、日本を挑発する意志あってのことだろう。だが、日本ではつり目は嫌われていないとなると、挑発の意味もなくなってしまう。「切れ長だと褒めて頂き光栄ですw」と返すことは、日本鬼子同様、相手の悪意の向け先を失わせる効果的な意趣返しとなるのだ。


 韓国の常識や感覚については詳しくないので、コメントは避ける。

 言うまでもなく、「日本鬼子」もあからさまな侮辱表現である。だが、これに対して怒りをあらわにするのではなく、むしろ皮肉で返す手法がエレガントだと評価された[8] [9]。これは日本国内だけに留まる話ではない。「日本鬼子」キャンペーンは海外でもニュースになった。そして、その扱いは必ずしも否定的なものではなかった[10] [11]。中国人の侮辱表現をまともに相手にしないことは、「国際感覚」に照らしても否定すべきことではなかったということだ。

 中国人の侮辱表現に対してはむきになるべきではないが、セルビア人の侮辱表現に対してはむきになるべきだという主張に正当性はない。どちらも同じ一外国、どちらも同じ侮辱行為であり、両者の間に決定的な違いはないからである。どちらも気にするか、気にしないか。答えは2つに1つである。東アジアの大国は軽んじてよいが、東ヨーロッパの小国は軽んじるべきではないなどというふざけた「国際感覚」など、どぶに捨ててしまえ。


図版出典一覧
図1:「ゆゆ式」第1話
図2:「けものフレンズ」第2話
図3:「ご注文はうさぎですか??」第5羽
図4:「GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」第1話オープニング
図5:「データコレクション11 勇者特急マイトガイン」 メディアワークス p.46
図6:「ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン」第1話オープニング
図7:「きんいろモザイク 2」 原悠衣 芳文社 p.7
図8:「データコレクション11 勇者特急マイトガイン」 メディアワークス p.48
図9:「なかよし」2003年3月号 講談社 p.69

[1] ただし、ホイの部下のチンジャ・ルースという人物はつり目である。
[2] 「役割語研究の地平」 金水敏:編 くろしお出版
[3] 漫画のキャラは白人ではない
[4] 「あなたがなりたい顔、どれですか?」(「美的」2016年8月号 小学館)
[5] 日本鬼子とは
[6] 日本鬼子
[7] 「日本鬼子」美少女に大変身 中国ネット利用者は愕然
[8] はてなブックマーク - すくいぬ 日本鬼子って萌えキャラ作って中国人を萌え豚にしようぜ
[9] 中国問題:井上純一氏の提言
[10] Japan blunts Chinese insults by turning them into cutesy figures
[11] 萌系日本鬼子 反攻中國