「もふもふ」という擬態語がある。この語は、次のように解説されている。

モフモフとは、毛や羽の感触がもふもふしていることをあらわす擬音である。

ニコニコ大百科 2008年

毛(髪、哺乳類、羽毛等)や衣類、その他やわらかそうな物の隙間に空気を抱えている感じを表したオノマトペ。

ピクシブ百科事典 2009年

多量の柔らかい毛をもち、ふかふか、ふわふわ、ふさふさ、もこもことした様子。猫やウサギの愛くるしい様子などを形容するのに使われることが多い。

実用日本語表現辞典 2010年

もふもふ。ふわふわしていることの例え。
ハムスターなどのふわっとした動物を表現するときに使用されることが多い。

はてなキーワード 2013年

子犬や子猫のように、もこもこふわふわした様子を表す擬態語です。

「もふもふ」の意味と使い方 2013年

 しかしながら、以上はすべてネット上の、しかもあまり権威のないサイトの解説である。
 その一方、調べた限り、紙の辞書には「もふもふ」という語を載せているものはない。
 「広辞苑 第六版」(岩波書店 2008年)も、「大辞林 第三版」(三省堂 2006年)も、「日本国語大辞典 第二版」(小学館 2001年)も、「明鏡国語辞典 第二版」(大修館書店 2010年)も、「新明解国語辞典 第七版」(三省堂 2011年)も、「三省堂国語辞典 第七版」(三省堂 2013年)も、「ベネッセ新修国語辞典 第二版」(ベネッセコーポレーション 2012年)も、「集英社国語辞典 第3版」(集英社 2012年)も、「大辞泉」(小学館 2012年)も、「もふもふ」という見出しを立てていないのだ。また、「暮らしのことば 擬音・擬態語辞典」(山口仲美:編 講談社 2003年)や「日本語オノマトペ辞典」(小野正弘:編 小学館 2007年)といったオノマトペ辞典にも、新語辞典である「現代用語の基礎知識」2012~2016年版(自由国民社)にも載っていない。

 なお、書籍版の「大辞泉」には「もふもふ」という項目がないが、「デジタル大辞泉」(定期的に更新)には「もふもふ」という項目があり、次のように説明されている。

一[副](スル)動物の毛などが豊かで、やわらかいさわり心地であるさま。「―した子猫」
二[形動]一に同じ。「―なヒヨコ」
[補説]「子ウサギをもふもふする」のように、動詞的に用いて、一のような物をなでたりさすったりすることにもいう。2000年代後半頃から広まったとみられるインターネットスラング。

もふもふ(モフモフ)とは - コトバンク

 だが、紙の辞書には載っていないとはいえ、「もふもふ」という語は今やネットスラングの域を超えてすっかり一般に定着してしまった。このことは、ネットスラングとの親和性があまり高くなさそうな「週刊新潮」でも、引用符つきとはいえ、註釈なしで使われるようになったことからもうかがえる。

(1) 施設周辺が雪に覆われる冬季、“もふもふ”した柔らかな冬毛をまとったキツネが白銀の世界を飛び跳ねる様は、まるで絵本の世界だ。

「宮城県・南蔵王 キツネの楽園」 村山嘉昭(A: p.8 2016年)(下線は引用者によるもの)

 なお、「もふもふ」の由来は、2002年に発行されたライトノベル「灼眼のシャナ」(高橋弥七郎 電撃文庫)で「カリカリモフモフ」という表現が使われたことというのが定説となっている[1] [2]。だが、実際に2002年発行の「灼眼のシャナ」第1巻を見てみると、そこでは「カリカリモフモフ」などという表現は使われていない。要するに、「もふもふ」の初出は2002年発行の「灼眼のシャナ」第1巻という定説は間違いだったのだ。
 それでは、「もふもふ」の初出は一体いつなのか? 記録がないゆえ、それはわからない。だが、遅くとも2005年というのは確かだ。

 続いて、この語が実際にはどのように用いられているのかを見てみたい。

 まずは、「デジタル大辞泉」などの解説通りの、動物の柔らかい毛並みを形容するという用法が挙げられる。

(2) (ウサギを見て)もふもふ天国だ――! (B: p.29 2012年)

(3) 亀はモフれないからなぁ (C: p.87 2013年)

 (1)のキツネや(2)のウサギは、まさに「柔らかな毛並みをもつ動物」の典型である。また、(3)は、亀には毛皮がないので、触ってもモフれない(=もふもふできない)という意味である。

 毛皮だけでなく、人間のボリュームのある髪の毛を「もふもふ」と表現した例もある。

(4) モフモフしたいお!モフモフモフモフ!髪髪モフモフ! (ゼロの使い魔 生ニーソ82足目 2006年)

(5) 髪の毛もふもふさせてもらえませんか (D: p.34 2014年)

 マイクのウィンドスクリーン、枕などの人工物についても用いられることがある。

(6) マイクの先っちょについているもふもふしたスポンジは別売りしていますか? (Yahoo! 知恵袋 2005年 「現代日本語書き言葉均衡コーパス」収録)

(7) まくらモフモフしたい (「手をギュしてね」 御庭つみき(大久保瑠美):歌 オミ織葉:作詞 2012年)

 ちょっと変わった用例としては、(8)のようなものが挙げられる。ここでは、「もふもふする」は毛皮や髪などを触ることではなく、人間に抱きつくという意味で用いられている。

(8)リゼ:モフモフする側じゃなくて される側になるぞ
 (中略)
チノ:あ 私抱きついたりとかしないので大丈夫です

(B: p.82 2012年)

 なお、(1)~(8)では、「もふもふ」というオノマトペは、物理的な触感を示す語として用いられている。その一方で、(9)では、物理的な触感ではなく、抽象的な感覚を表現するために「もふもふ」という語が使われている。

(9) ハートもふもふ あったかい気持ち (「ときめきポポロン♪」 チマメ隊:歌 うらん:作詞 2015年)


 さて、用例の年代や辞書の掲載状況などから考えるに、「もふもふ」という語の一般への定着は、ここ3、4年のことだろう。だが、言うまでもなくスラングとしての使用歴はもっと長い。上で述べたように、現在につながる「もふもふ」の用例は、少なくとも2005年にさかのぼることができる。「デジタル大辞泉」に「2000年代後半頃から広まったとみられる」と書いてあるように、2005年かその少し前に誕生した語と考えるのが妥当だろう。
 さらに、用例からは、「もふもふ」という語が、その誕生の直後から、髪の毛や人工物など、さまざまなものの柔らかさを表現するために用いられていたことがわかる。

 一応、1994年にも(10)のような「もふもふ」の使用例があるが、これは対象の柔らかさを表す語というよりも、食事の様子を形容した表現したものである。さらに、その後再び「もふもふ」という語が使われるようになるまでには10年ほどのブランクがある。ならば、(10)は、毛皮などの柔らかさを指す現在の用法に直接つながるものではないと考えるのが妥当だろう。

(10) モフモフと ジャムパン 食べている君の横で僕は (「香菜、頭をよくしてあげよう」 筋肉少女帯:歌 大槻ケンヂ:作詞 1994年)

 ただし、最近の用例にも、(10)と同じように食事の様子の形容として「もふもふ」が用いられた例はある。

(11) 女子ならワッフルmfmf(もふもふ) (「after school NAVIGATORS」  にこりんぱな:矢澤にこ(徳井青空)・星空凛(飯田里穂)・小泉花陽(久保ユリカ):歌 畑亜貴:作詞 2012年)


用例一覧
A: 「週刊新潮」2016年2月11日号
B: 「ご注文はうさぎですか? 1」 Koi 芳文社
C: 「きんいろモザイク 3」 原悠衣 芳文社
D: 「大室家 2」 なもり 一迅社

[1] 「もふもふ」の意味と使い方
[2] もふもふとは - はてなキーワード