2015年3月11日の記事に対してツイッターで反論があったので、それに対する再反論を書いておきたい。



 3番目のツイートを見るに、どうも、無月庵(風月堂)氏は当該リンク先を直接確認してはいないようである。

124 :名無し戦隊ナノレンジャー!:01/11/29 06:07
>>112
へたれ白泉男子(花ゆめコミックス買うような男子の意)の俺としては、1。
相手が乗っているときにわざわざ話しの輿をおらんでもよろしでしょ。

萌える男の娘キャラっつーと、ハリー@ハリー・ポッターに尽きるでしょう。
全世界のショタの心をわしづかみ>ハリー

現実の茄子姐を追いかけるスレ

 上の発言は、エロゲネタ板の「現実で立ったフラグを追いかけるスレ」の派生スレッドにおいて、「萌える男子キャラ」という話題の中で出たものである。すなわち、発言の舞台はエロゲー愛好者の集まる場。そのような場で「萌える」「ショタ」といった、いわゆるおたく用語を用いて発言している以上、対象が児童文学(あるいはそれを原作とした実写映画)であっても、「男向け二次元と無関係」と言い切ることはできないのだ。
 そもそも、おたくだからといっておたく向けに作られた作品しか見ないなどということはない。子供番組に耽溺する大きなお友達を挙げるまでもなく、おたく向けでない作品をおたく向け作品と同じ感覚で見ることは決して珍しくないのである。


 よくある「女の子を描いて男と言い張っているだけ」論である。

 女装後の男の娘キャラは、大抵女の子そのものの姿をしているから、このような論が出るのは、まあ納得できる。
 確かに、「ひめゴト」の有川かぐや、「オンナノコときどきオトコノコ」の水原あきら、「ボクと僕」の麻生二郎[1]などの、ほとんどの場面で女の姿をしており、なおかつ日常的に<女言葉>を使っているようなキャラクターだったら、女子キャラの一変形と考えることもできるだろう。また、<女言葉>を使う女装した成人男性キャラが成人女性キャラに準ずる存在として描かれているということは、2014年5月6日の記事でも述べた通りである。

 だが、創作物の男の娘キャラはこのような人物に限ったわけではない。主人公クラスの人物に目をやれば、男の恰好をすることもある男の娘キャラも決して珍しいものではないのだ。しかも、これらのキャラクターは男の姿をしていても充分可愛い。

 なお、この論については、2015年3月11日の記事でも言及している。

 「男の娘キャラは、設定上は男でも見た目は女だから、ノンケの男が萌えてもおかしくない」という反論があるかもしれないが、それは必ずしも当てはまらない。なぜなら、男の娘キャラが男の姿をすることは決して珍しいことではないからだ。


 続いて、「ショタ」と「男の娘」の関係について。

 明言はされていないが、ツイートを見るに、どうも、無月庵(風月堂)氏の想定するショタキャラなるものは、女の子のような男の子ではなく、はっきりと少年らしく描かれているキャラクターのようだ。具体的には、「ひかるtoヒカリ」(竹林月)だったらひかるではなく勇人、「新☆だぁ! だぁ! だぁ!」(川村美香)だったらルゥではなくランのようなタイプだ。
 ニコニコ大百科では、このようなキャラは「純少年系 (正統派ショタ)」に分類されている。「正統派」というのだから、これがショタキャラの基本形であるのは確かなのだろう。

 だが、ショタキャラのタイプはこれだけではない。ひかるやルゥだって、れっきとしたショタキャラの一典型なのだ。
 前述のニコニコ大百科では、「ロリ系ショタ」や「女装ショタ」がショタキャラの下位分類として記されている。また、ウィキペディアの「男の娘」の項目でも、「男の娘」という言葉が定着していなかった2000年頃、この手のキャラクターを指す語として「女装ショタ」や「ロリショタ」という語が使われていたということが述べられている。これは、大百科やウィキペディアの編集者がでっち上げた用法などではない。女装した可愛い少年キャラクターを「女装ショタ」と呼ぶ例は、私自身も10年以上前に聞いたことがある。
 また、ショタものの作品集の中に女装ネタの作品が1つ2つ入っていることも珍しくない[2]。これも、男の娘とショタの関連性を示す傍証と言えよう。

 男の娘のルーツがショタであると明言しているソースは、コミックナタリーのインタビュー記事くらいしか見つからない。だが、傍証ならばいくらでもある。
 現在では、ショタと男の娘は別々の属性と見なされている。しかし、かつてはそうではなかったのだ。男の娘の歴史について語るならば、そのことを忘れてはならない。


 本当だろうか?

 ピクシブ「有川ひめ」というタグがつけられた絵を検索すると、新着40作品中、男子姿が描かれたものは2作品と、確かに非常に少ない。
 しかしながら、すべての男の娘キャラがそうというわけではない。
 例えば、「わぁい!」のアンケート結果によると、いちばん人気のある男の娘キャラクターは「バカとテストと召喚獣」木下秀吉だという[3]。そこで、ピクシブで「木下秀吉」でタグ検索をおこなってみると、新着40作品のおよそ4分の1に男子姿が描かれている。また、「わぁい!」Vol. 6では「星空へ架かる橋」星野歩が紹介されているが、「星野歩」でタグ検索すると、過半数の作品に男子姿が描かれていることがわかる。

 要するに、無月庵(風月堂) 氏の発言は大間違いだったのだ。

 有川ひめの男子姿があまり描かれないのは、おそらく、アニメで男子姿がほとんど描かれなかったので[4]、視聴者に男子姿の印象を与えなかったためというのが理由だろう。一方、男の娘なのにきちんと男子姿も描かれるキャラがいるのは、作中できちんと男子姿を見せており、読者・視聴者に男子姿の印象を与えていたためと考えられる。

 逆に、女装の似合わないキャラクターであっても、作中で女装姿が印象的に描かれていれば、ファンもその女装姿を描く。
 例えば、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」松雪集は、美形ではあるものの、身長180センチを超える偉丈夫であり、決して女っぽくはない。どう考えても女子キャラの一変形として受け入れられているとは思えない[5]。だが、アニメ第4話で女装姿を披露し、視聴者に強い印象を与えていたため、「松雪集」でタグ検索すると、新着40作品中17作品で女装姿が描かれている。

 結局、ピクシブで女装姿が多く描かれるからといって、即座にそのキャラが女子キャラの一変形として受け取られていると判断することはできないのだ。なお、上記検索結果は、いずれも2016年3月31日時点のものである。

 それ以前に、ピクシブができたのは2007年である。その時点では、「男の娘」はすでに独立した属性として成立していた。「男の娘」と「ショタ」の歴史的な関係を否定したいなら、もっと古い資料を持ってこなければならない。



 その通り、言葉の正しい解釈には、辞書の語釈だけでなく、実際の用例も集めなければならない。この場合は、イベント参加者が同人誌の有料での頒布をどのように言い表しているかを調べる必要がある。

 では、イベント参加者による用例を調べた人はいるのか。

 いる。

 では、それは誰か。

 私だ。

 2013年12月23日の当該記事からもリンクをはっているが、同人文化の中で「頒布」という語が使われるというテーマについては、すでにワンダ氏の「同人文化における『頒布』の意味解釈」という記事が存在する。
 だが、ワンダ氏が調査した実例は同人誌即売会のチラシやコミックマーケット準備会の発行物での使われ方であって、これだけではイベント参加者が本当に「販売」という言葉を使わず、「頒布」を使っているのかはわからない。また、「販売」の同義語の「売る」、あるいは対義語の「購入」「買う」という語の使用状況については、フリーライターの有村悠氏とのやりとりで話題にしているものの、答えは出ていない様子だ[6]
 そこで、実際にイベント参加者がどのような言葉を使っているのかを調べてみたのが、当ブログの2013年12月23日の記事なのである。

 結論を繰り返せば、イベント参加者の間では、「売る」という語は「頒布」と同じ場所、同じような意味で用いられている。そもそも辞書と異なるニュアンスで使われてなどいなかったのだ。


 「真に受ける」という表現は、専ら嘘や冗談や胡散臭い噂話について用いられる。すなわち、無月庵(風月堂) 氏は、コミックナタリーのインタビュー記事を与太記事と考えているわけだ。
 そう判断する理由は何だろうか。ショタと男の娘の関連性を否定する調査結果でも持っているのだろうか。あるいは、ショタと男の娘の関連性を否定する信憑性の高い資料を知っているのだろうか。それとも、当該記事が宣伝的だから信憑性は低いと考えているのだろうか。
 無月庵(風月堂) 氏の発言を見てみよう。

  • 必ずしもショタ嗜好の文脈ではないように思える
  • 必ずしもショタ男子キャラとしては描かれないように思える

(下線は引用者によるもの。)

 「思える」、「思える」……。何のことはない。単に思っているだけだ。自分の思いこみと一致しないという理由で、当該記事の記述を与太話と判断しているのだ。大した自信である。

 また、無月庵(風月堂) 氏が存在をほのめかす「女装特有の意味や価値」というのは何だろうか。そもそも、そんなものが本当にあるのだろうか。
 2015年3月11日の記事で、私は以下のように述べている。

 (註:男の娘専門誌の)創刊前には、どれも似たような話になってしまわないかという心配する人もいたが、蓋を開けてみれば、掲載作品は千差万別。同じ「女装」という題材を使っているにもかかわらず、その作風はギャグからシリアスまで多岐にわたっている。共通のテーマである「女装」の位置づけも、作品によって全く異なる。

 実際、創作物の中での女装の扱われ方は千差万別である。例えば、磯野カツオ(「サザエさん」)と大空ひばり(「ストップ!! ひばりくん」)と月光刑事(「こちら葛飾区亀有公園前派出所」)と南野のえる(「ミントな僕ら」)と朱莉鹿児(「ぱすとふゅーちゃー」)と松雪集(「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」)の女装には、「女装」という一点を除いて何の共通点もない。
 また、女装ものの主要なテーマとしては、「性別を隠して生活することで巻き起こる悲喜劇を描く」というものがある。だが、これは必ずしも女装特有の題材などではない。男装ものやTSものなどの隣接分野でも扱われているテーマである。

 結局、「女装特有の意味や価値」などなかったのだ。


 「萌え」という語の指す範囲は実に幅広い。単体萌え、シチュエーション萌え、カップリング萌えはおろか、工場萌え長距離電車萌えなどの用法もあり、もはや、好意的な感情すべてに当てはまるといっても過言ではない。
 だが、コーパスで実際の用法を見る限り、「萌え」の基本形は、あくまでも魅力的な人物や状況に対する欲情あるいは疑似恋愛的な感情であると言えよう。実際、「萌えアニメ」という言葉は、単に「面白いアニメ」のことではなく、専ら美男美女が活躍するアニメを指して使われている。

 萌えとセクシャリティーは、実際近しい概念なのだ。ましてや、ここで話題にしているのは美形キャラに対する「萌え」である。まさに基本形の萌えだ。セクシャリティーと結びつけることに不都合はなかろう。


 そりゃ、百合というのは「キャラ×キャラ」すなわち「他人×他人」であって、見ている側は部外者にすぎないのだから、「百合好きの女性=実生活でもビアン」でなくてもおかしくはない。

 それでは、なぜ男の娘萌えは男色につながると判断できるのだろうか。2015年3月11日の記事でも書いたが、男の娘のルーツをさかのぼると、やおいにたどり着く。ならば、男の娘萌えもカップリング萌えの一種であって、見ている側の性的指向とは別と考えられないか。
 果たして、男の娘萌えは単体萌えメインなのだろうか、それともカップリング萌えメインなのだろうか。実際に調べてみた。
 サンプルにしたのは「わぁい!」のイラストページだ。「1枚の絵に複数の人物が描かれている=カップリング」と単純に考えることはできないが、少なくともカップリング萌えメインであるのならば、複数の人物が描かれている絵が圧倒的多数を占めなければならないだろう。
 「わぁい!」Vol. 1~7に載っている全35作品を見てみると、人物が1人だけ描かれているものが18作品、2人以上描かれているものが17作品あった。複数の人物が描かれているものも多いことは多いが、圧倒的多数とは言えない。この結果からは、男の娘萌えはカップリング萌えメインとは言いがたい。

 一方、一枚絵ではなく物語となると、展開の中でカップリングができ上がる作品も多い。だが、その場合でも、読者がカップルの一方に自己投影するように作られたものも多く、必ずしもカップリング萌えに重点を置いているとは言えない。例えば、「さざなみチェリー」(神吉)は「男の子×男の娘」の物語、「オトコノ娘デイズ」(河南あすか)は「男の娘×男の娘」の物語だが、同時にそれぞれ主人公である汀一弘、秋成に自己投影できるように作られている。

 また、個人のセクシャリティーにおいて、「実生活」(実在する相手との日常的な人間関係を指しているのだろう。)というのはごく一部にすぎない。セクシャリティーについて議論するならば、例えばポルノなどの「『実生活』でないもの」についても忘れてはならないのだ。男色にしても同様だ。実際、江戸時代の男色についての話題で、陰間や春画などの「実生活」と離れたものが言及されることは珍しいことではない[7] [8] [9]


 恋人でなくてもセックスする関係というのは、要はセックスフレンドと同じだ。セックスフレンドのいる人は、多分日本にも存在する。


 さて、一連のツイートには、ソースも具体例もほとんどない。新しく出てきた固有名詞すら、「pixiv」1つだけだ。
 結局、無月庵(風月堂)氏は、これだけのツイートを費やしながら、「根拠はないが、何となく信じられない」以上のことは言っていないのである。


[1] 麻生二郎が男子制服を着ているシーンも複数存在するが、描かれているのは上半身だけである。すなわち、麻生のズボン姿は「ボクと僕」の作中では一度も描かれていない。
[2] 例えば、「星の降る音」(星逢ひろ 松文館)など。
[3] 「わぁい!」Vol. 2~7
[4] 一方、原作では、すべての巻で有川ひめの男子姿が描かれている。
[5] しかしながら、「わぁい!」Vol. 6では、松雪集の女装シーンが登場する「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」DVD第3巻が紹介されている。
[6] 【ツイッター参考文献】同人文化における「頒布」の意味解釈
[7] 「男色の日本史」 ゲイリー・P・リュープ 藤田真利子:訳 作品社
[8] 「女装と日本人」 三橋順子 講談社現代新書
[9] 「日本売春史」 小谷野敦 新潮選書