今や、日本の漫画やアニメは世界のあちこちへ輸出され、多くのファンを生んでいる。
 しかしながら、日本の漫画やアニメは、必ずしも外国で正しく理解されているとは言えない。日本の漫画やアニメは必ずしも輸出を前提としたものではないので、日本文化や日本社会、その他国内の常識や価値観が説明なしに登場する。そのため、輸出先で混乱や誤解を招くことがあるのだ。
 日本の漫画やアニメに対する典型的な誤解としては、「日本の漫画やアニメの登場人物は白人をモデルにしている」というものがある。日本の漫画やアニメには、カラフルな髪や大きな目を持つキャラクターがよく出てくるが、アメリカなどでは、これが「白人的」ととらえられているのである[1] [2]

 この誤解に反論した例は少ない。市販の本では、せいぜい「嫌韓流2」(山野車輪 晋遊舎)にあるくらいだ。しかも、山野氏の反論はあくまで自著での日本人キャラクターの描き方についての批判に対するもので、日本の漫画一般の話ではない。

 とはいえ、それ以外に目をやれば、「日本の漫画やアニメの登場人物は白人をモデルにしている」という通説の検証を見つけることができる。

 検証の例としては、三浦直是・山本広志「漫画の登場人物の顔の分析」という論文が挙げられる。
 この論文では、漫画の登場人物の顔のパーツを日本人と白人の芸能人のそれと比較するという手法で、漫画の登場人物は日本人と白人のどちらに似ているかを調べている。その上で、「漫画の登場人物の顔が白人をモデルにしていると考える根拠は存在しない」という結論を出している。
 例えば、女性向け漫画の登場人物の瞳は現実の人間のそれより大きいが、男性向け漫画の登場人物の瞳の大きさは現実の人間と同じくらいであり、一概に「漫画の登場人物は瞳が大きい」とは言えない。さらに、日本人の目は白人のそれより大きく、「大きな目=白人的」という前提自体が疑わしい。
 また、男性向け漫画の髪の色、瞳の色、肌の色は、大多数が現実の日本人と同じようなものである。一方、女性向け漫画の髪の色、瞳の色は多彩であって、現実の人間の髪や瞳の色を反映しているとは言えない。

 「日本の漫画やアニメの登場人物は白人をモデルにしている」という通説に対する反論としては、先の論文の他にも、ニューヨーク在住のプログラマー、Agabond氏による「Why do the Japanese draw themselves as white?」という記事を挙げることができる。これは個人ブログの記事であるが、各所に転載されて話題となり、さらには日本語に翻訳されて多くのコメントを集めている[3]
 Agabond氏によると、アメリカ人が「日本の漫画やアニメの登場人物は白人をモデルにしている」と考えるのは、アメリカ人にとってデフォルトの人間が白人男性であるからにすぎないという。アメリカでは、描かれた人物に他人種を示すステレオタイプ的な記号がない場合、基本的にその人物は白人であると受け取られる。一方、日本ではデフォルトの人間は日本人であるため、日本人キャラクターを描く際に、わざわざアジア人であることを示すステレオタイプ的な記号がつけられることはない。日米両国にこのような認識の差があるため、人種を示すステレオタイプ的な特徴が付与されていないアニメキャラを見たアメリカ人は、「白人が描かれている」と誤解してしまうのだという。
 Agabond氏はさらに、アニメキャラの絵柄の特徴とされるものが何ら白人的ではないことを示している。大きな丸い目はそもそも実在しないし、髪の色には黄色だけでなく、青や緑などの非現実的な色も用いられる。白人の鼻が長いのに対し、アニメキャラの鼻は小さい。アニメキャラの肌は白いが、日本人にだって色白は多い。

 このように、日本の漫画やアニメの登場人物は、決して現実の白人には似ていない。
 似ていないのは現実の白人だけではない。日本の漫画やアニメの登場人物は、ステレオタイプ的な白人にも似ていないのだ。Agabond氏も言及しているが、日本の漫画やアニメにステレオタイプ的な白人(特に西洋人)が登場する場合、その容姿は日本人キャラの典型とは外れたものになる。

 漫画に限ったことではないが、ステレオタイプ的な西洋人は、図1~2のような高い鼻の持ち主として描かれることが多い。


図1


図2

 一方、特に少女漫画や萌え漫画では、鼻は小さく描かれる傾向がある[4] [5]

 また、(1)~(2)はどちらも漫画の台詞だが、これらの台詞は、あるステレオタイプが漫画読者に共有されていることを前提としている。

(1) 顔が長いのも外人らしいと認めよう。 (「少年サンデーコミックスワイド版 究極超人あ~る 4」 ゆうきまさみ 小学館 p.214)

(2) (日本人を見て)ローマ人じゃない… 顔が平たい… (「テルマエ・ロマエ I」 ヤマザキマリ エンターブレイン p.17)

 西洋人は日本人より面長で、なおかつ日本人より彫りが深いというステレオタイプである。だが、漫画の登場人物は、現実よりも丸顔に描かれる傾向がある[6]。また、彫りの深さについても、特に萌え漫画では、顔はむしろ平たく描かれる傾向があるという[5]


 ここまで「日本の漫画やアニメの登場人物は白人をモデルにしている」という通説(迷信と呼んでも問題はあるまい。)について述べてきたが、これを信じているのは日本の常識や価値観になじみのない外国人に限ったことではない。この迷信は、日本でも少なからぬ数の人に受け入れられているのだ。例えば、吉村和真「近代日本マンガの身体」[7]という論文も、この迷信を前提としたものである。

 この論文には、次のような記述がある。

例えば少女マンガにおいては、周知の通り、登場人物の多くが「西洋人」的な顔と身体の持ち主である[図版3]。流麗なブロンドヘアー、異様に大きくキラキラした瞳、バランスの良い頭身と細長い手足など、そこには、理想化された「西洋人」的外面を持った「日本人」の女性・男性たちが居並んでいる。

「役割語研究の地平」 p.115-116

 「周知の通り」と、少女漫画の登場人物が西洋人的な容姿であるという説があたかも当たり前の事実のように述べられているが、それは正しくない。
 三浦・山本両氏の調査によれば、女性向け漫画の登場人物の髪の色は、黒色が30%、茶色と金色が各23%、桃色、銀色、白色が各3%。色が一定しないものが13%と、決して金髪が多数派というわけではない[6]
 大きな目についても、それが西洋的な要素と言い切れないことはすでに述べた通りである。それ以前に、大きな目に対する憧れを即座に西洋人と結びつけること自体、妥当とは言いがたい。なぜなら、大きい目を美しいと考える価値観は江戸時代から存在したからだ[8] [9]
 とはいえ、この点をもって「近代日本マンガの身体」を批判するのはフェアではない。この論文は2004年におこなわれた講演を基にしたものであり[7]、その時点では三浦・山本両氏の論文(2011年)やAgabond氏の記事(2010年)はおろか、「嫌韓流2」(2006年)すら出ていなかったからである。

 吉村氏はまた、日本の漫画には「メガネ・出歯・がに股」という「アジア人」的な外面の持ち主も登場するが、そのルーツは、幕末~明治にワーグマンやビゴーが描いたデフォルメされた日本人像にあると述べている。不恰好にデフォルメされた日本人像は、当時の西洋人が日本人を見下していたことの表れであり、類似の意匠が日本の漫画にも見られることは、日本人のアジア人に対する偏見や、日本人自身に対する反転した自己認識があるというのだ。

 吉村氏はさらに、理想化された「西洋人」的身体と「アジア人」的身体が組み合さった例として、「銀河鉄道999」のメーテルと星野鉄郎、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の中川圭一と両津勘吉を挙げている。
 要するに、吉村氏はメーテルや中川の美しい容姿を「西洋人的」、鉄郎や両津の容姿を「アジア人的」と見なしているわけだが、果たしてその解釈は妥当なのだろうか。

 少なくとも、両津については「アジア人的」という判断は当てはまらないだろう。確かに「短足、がに股」という要素は、西洋人がイメージするステレオタイプ化されたアジア人像とも共通している。だが、顔については決して「アジア人的」とは言えない。両津は鉤鼻で彫りが深く、全体的に角ばっていて濃い顔つきだ。ソース顔かしょうゆ顔かで言えば、むしろソース顔に分類される。

 このことは、他作品に登場するステレオタイプ化された東洋人キャラ、西洋人キャラと対比することでもわかる。


図3 ホイ・コウ・ロウ(「勇者特急マイトガイン」 サンライズ・名古屋テレビ)


図4 ウォルフガング(「勇者特急マイトガイン」 サンライズ・名古屋テレビ)

 「勇者特急マイトガイン」の悪役には、各国のステレオタイプを誇張した外国人キャラクターが多い。図3のホイは中国風、図4のウォルフガングはドイツ風のキャラである。そして、この2人のうち、がに股や角ばった濃い顔といった両津と共通する外見的特徴を持つのは、ウォルフガングの方だ。

 このような特徴を持つ西洋人キャラクターは、ウォルフガングに限ったことではない。図5のゲオルグ・ハスキルも、両津やウォルフガングと同じく、角ばった濃い顔の持ち主だ。


図5 ゲオルグ・ハスキル(「明日のナージャ」 東堂いずみ:原作 あゆみゆい:まんが)

 両津が「アジア人的」身体の持ち主だとするならば、ウォルフガングやゲオルグも同様に「アジア人的」身体の持ち主ということになる。その一方で、ウォルフガングやゲオルグは作中で明らかにヨーロッパ風の人物として描かれている。もしウォルフガングやゲオルグが本当に「アジア人的」だとしたら、そんなキャラが作中でヨーロッパ人扱いされていることに、見ている方は大きな違和感を持つことだろう。しかしながら、「勇者特急マイトガイン」や「明日のナージャ」を見ていても、そのような違和感を抱くことはない。すなわち、ウォルフガングやゲオルグの容姿は、決して「アジア人的」ではないということだ。これは同時に、両津の容姿も「アジア人的」ではないことを意味する。これらの登場人物は標準的な美形とはかけ離れているが、それは決して「アジア人的」ということにはつながらないのだ。
 なお、「勇者特急マイトガイン」は1993年、「明日のナージャ」は2003年の作品である。


 さて、Agabond氏によれば、アメリカで東洋人を描く際、デフォルトの人間である白人と区別するために用いられる要素は「つり上がった目」だという[10] [11]。「ナンセンスの博物誌」(B・エヴァンズ 原田敬一:訳 大和書房)でも、西洋人が東洋人に対して抱く誤ったステレオタイプの例として、「つり上がった目」が挙げられている。では、日本の漫画やアニメでは、つり目という意匠はどのように用いられているのだろうか。

 西洋でのステレオタイプ通りにつり目で描かれた東洋人キャラ(日本人除く)としては、「ジュエルペット てぃんくる☆」沙羅(日印ハーフ)(画像なし)、「カードキャプターさくら」の李苺鈴(中国人)(図6)などが挙げられる。


図6 李苺鈴(「カードキャプターさくら」 CLAMP・講談社・NHK・NEP)

 だが、つり目で描かれるのは東洋人だけではない。「きんいろモザイク」九条カレン(日英ハーフ)(図7)や「キルミーベイベー」ソーニャ(図8)のように、西洋風のキャラがつり目で描かれることもある。


図7 九条カレン(「きんいろモザイク」 原悠衣)


図8 ソーニャ(「キルミーベイベー」 カヅホ)

 外国とは無関係の日本人(と思われる)キャラであっても、つり目で描かれる例は多数存在する(図9~12)。


図9 秋山澪(「けいおん!」 かきふらい)


図10 櫟井唯(「ゆゆ式」 三上小又・芳文社/ゆゆ式情報処理部)


図11 天々座理世(「ご注文はうさぎですか??」 Koi・芳文社/ご注文は製作委員会ですか??)


図12 恵飛須沢胡桃(「がっこうぐらし!」 海法紀光(ニトロプラス):原作 千葉サドル:作画)

 これらの例からわかることは、日本では「つり目」と「東洋人」という属性は必ずしもリンクしていないということだ。このことは、ステレオタイプ化された中国風キャラである「勇者特急マイトガイン」のホイ・コウ・ロウ(図3)が垂れ目の持ち主であることからもうかがえる[12]
 また、つり目キャラの中には美形も多い。日本の漫画やアニメでは、つり目は別段ネガティブな要素ではないのだ。

 このように、日本とアメリカとでは感覚が大きく異なるのである。アメリカの基準で日本の作品のキャラクターデザインを論じようなど、ナンセンス極まりない。


 さて、日本の漫画やアニメに対するアメリカ人の誤解について、Agabond氏は次のようにコメントしている。

Some Americans, even some scholars, will argue against this view of anime. They want to think the Japanese worship America or worship whiteness and use anime to prove it.

(Why do the Japanese draw themselves as white?)

アメリカ人の中には、学者ですら、日本のアニメの描き方に異議を唱える人たちがいる。彼らは、日本人がアメリカや白人を崇拝しているのだと思いたいのだ。
そして、その証拠としてアニメを挙げたいのだ。

とりいそぎ。:訳)

 それでは、日本人が「日本の漫画やアニメの登場人物は白人をモデルにしている」と言うのはどういうことなのだろうか? こちらは、十中八九西洋かぶれであろう。自分が西洋を崇拝しているから、他の人もそうだと思いこんでいるのだ。


図版出典一覧
図1:「基礎英語3」1997年9月号 松尾かおる、宮城ユカリ、城戸ふさ子、広居裕美、若林美佐子:本文イラスト 日本放送出版協会 p.43
図2:「恐竜雑学 謎と不思議」 平川陽一 奥田志津男:本文イラスト 日東書院 p.263
図3:「データコレクション11 勇者特急マイトガイン」 メディアワークス p.46
図4:同上 p.48
図5:「なかよし」2003年3月号 講談社 p.69
図6:「テレビアニメーション カードキャプターさくら コンプリートブック クロウカード編」 講談社 p.24
図7:「きんいろモザイク 2」 原悠衣 芳文社 p.7
図8:「キルミーベイベー 2」 カヅホ 芳文社 p.33
図9:「けいおん! 1」 かきふらい 芳文社 p.109
図10:「ゆゆ式」第1話
図11:「ご注文はうさぎですか??」第5羽
図12:「がっこうぐらし! 1」 海法紀光(ニトロプラス):原作 千葉サドル:作画 芳文社 p.1

[1] 「ニッポンマンガ論」 フレデリック L. ショット 樋口あやこ:訳 マール社
[2] 「アメリカで日本のアニメは、どう見られてきたか?」 草薙聡志 徳間書店
[3] 海外の反応 - 日本のアニメ・キャラクターは白人に似せているわけではありません!-
[4] 「マンガ超初級講座」 視覚デザイン研究所
[5] 萌え絵
[6] 「漫画の登場人物の顔の分析」 三浦直是、山本広志
[7] 「役割語研究の地平」 金水敏:編 くろしお出版
[8] 「けっこう仮面が顔を隠す理由」 井上章一、永井豪 メディアファクトリー
[9] 「江戸のエロスは血の香り」 氏家幹人 朝日新聞出版
[10] The Boondocks, Astro Boy and drawing people of colour
[11] Why do the Japanese draw themselves as white?
[12] ただし、ホイの部下のチンジャ・ルースという人物はつり目である。