「ヒロイン」という語は、辞書では以下のように説明されている。

ヒロイン【heroine】事件または小説・物語・戯曲などの女主人公。

「広辞苑 第四版」 岩波書店 1991年


ヒロイン〔heroine〕
一 小説などの女主人公。
二 女性で、すぐれた人物。女傑。

「新明解国語辞典 第五版」 三省堂 1997年

 これ以外の辞書も、その大小、新旧問わず似たような説明を載せている。
 だが、実際の用法を見てみると、「ヒロイン」という語は必ずしも主人公という意味で使われているとは限らないことに気づく。むしろ、(1)や(2)のように、主人公とヒロインを別物と見なした上で、男主人公の相手役(恋人、相棒など)をヒロインと称する例が目立つ。

(1) あまり類を見ない(と思われる)「不定形でメイド」なヒロインと、普通を求める自称「平凡」な主人公。

(A: p.225 2010年)


(2) 何とびっくり、主人公の家は代々、邪神崇拝者の家系だった! (中略) ヒロインのルルがしっかりと邪神で、犠牲者が続出するあたりが何気にガチな作品。

(B: p.143 2012年)

 また、ニコニコ大百科の記述も、専ら男主人公の相手役に関するものだ。

 「女主人公」、「女傑」という辞書の説明に従うならば、物語の中心として活躍する強くて恰好よい女キャラこそヒロインと呼ばれてしかるべきであるが、(3)や(4)のように、そのようなキャラクターをヒロインと呼ぶことをためらうような例すらある。

(3) とにかく、こうして見てみると、女戦士たちは、徐々にではあるが、かつての単なる魅力的な脇役から、独立した主人公(ヒロインといっていいのだろうか?)や、信頼できるパートナーに変わりつつある。

(C: p.94 1991年)


(4) 「ヒロインもの」ではなく「ヒーローもの」。ここがミソ。何よりこれまでのヒロインと違う点は武器や道具を一切使わないこと。これは珍しい。魔法の杖も不思議なブレスレットも持ってない。自分の手で、脚で、相手を追い詰めなければならない。

ふたりはプリキュア -作品解説-

 とはいえ、主人公を指す用法が消えたわけではない。例えば、(5)でヒロインと呼ばれている桃宮いちごは「東京ミュウミュウ」の主人公、(6)でヒロインと呼ばれている黒木智子は「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」の主人公である。

(5) いちごちゃんはヒロインらしいヒロインですよね。

(D: p.53 2003年)


(6) トイレや屎尿にこれほど縁のあるヒロインが、これまでいただろうか。

(E: p.95 2013年)

 さて、「ヒロイン」という語が主人公の相手役を指すようになったのは、決して最近のことではない。昔は「ヒロイン」という外来語ではなく「女主人公」という訳語が用いられることが多かったが、その頃から、男主人公の相手役を指して「女主人公」という語が用いられることは珍しくなかった。

(7) 「おもしろいシナリオをかいてみよう。ぼくが主役で活躍するの。」「女主人公は、もちろんしずちゃん。」

(F: p.160 1975年初出[1]


(8) メアリー夫人は、ながいあいだ、ゆめに見つづけたホワイトハウスの女主人公になるのですから、こうふんで、ほおをまっかにしていましたし、子どもたちは、これも大はしゃぎで、部屋のいくつもあるたてものの中をはしりまわっていました。

(G: p.160 1981年)


(9) そこで、あえて一八三〇年に起った事件を物語り、ふたりの女主人公レーナル夫人とラ・モール嬢がどんな形の衣裳をつけていたかについては、読者に一言も語らなかったのです。

(D・グルフォット・パペラ「『赤と黒』について」 H: p.473 1958年 改版1988年 原文1832年)

 (7)では、はっきりと主役と女主人公を別物扱いしている。
 また、(8)のメアリー夫人というのはアメリカ大統領夫人のことである。ホワイトハウスの主人公はあくまで大統領であって大統領夫人ではないのだから、これも、主人公とは異なる存在を「女主人公」と呼んだ例に当てはまる。
 (9)では、レーナル夫人とラ・モール嬢を「女主人公」と呼んでいるが、「赤と黒」の主人公はジュリヤンであり、レーナル夫人とラ・モール嬢の役割はあくまで主人公の恋人である。

 さて、用例を調べていくと、「ヒロイン」という語の意味は、「主人公」や「男主人公の相手役」から、さらに拡大を続けていることが窺える。際限のない意味拡大の結果、今や、あらゆる登場人物がヒロインと称される可能性を秘めているとすら言えるのだ。

 例えば、ギャルゲーで攻略対象となる女キャラはヒロインと呼ばれるが[2]、その用法をさらに発展させたのか、性別問わず攻略する方を「主人公」、攻略される方を「ヒロイン」と呼ぶことすらあるのだ。この用法はゲームに限ったことではない。例えば、(10)はライトノベルのあとがきの一文だが、ここでは、積極的に男キャラにアプローチをしかける女キャラが主人公、女キャラにアプローチされる男キャラがヒロインと呼ばれている。

(10) 物語の構造もオーソドックスに勧善懲悪、主人公のニャル子がツンデレヒロインの真尋を守るために獅子奮迅の大活躍……うん、何一つ間違ってないな。

(I: p.266 2009年)

 また、複数の女キャラが登場する作品では、主役脇役問わず、女キャラの全員(あるいは大半)がヒロインと呼ばれる場合すらある。

(11)379 : ななしのよっしん :2014/10/01(水) 21:23:11 ID: tGRDw8/wPx
ラノベ原作というよりバカ殿様みたいなバラエティ番組みたいな構成で
すごい独特な面白さだったなアニメ

そして今更になって気づいた…ヒロインの過半数の名前が「み」で終わってるってどういうことなの…


380 : ななしのよっしん :2014/10/01(水) 22:16:30 ID: Ni7B+i+JE1
遠藤梨乃
九条ふみ ☆
鈴木いくみ ☆
村上絵美 ☆
二階堂彩香
白河香織
くみ(おっぱい担当) ☆
志乃(毒舌担当)
黒川真理(オカルト研究会)
山中君江(都会コンプレックス)
内村朋子(顧問)

特に意図がある訳でもないような希ガス

人生(ライトノベル)について語るスレ

 380が挙げている登場人物のうち、白河香織は敵役、くみ以下の5人は脇役である。レギュラーですらない。そして、白河香織以下6人は公式サイトの登場人物一覧にも載っていない。

 このように、ヒロインという語の意味があまりにも拡大したためか、主人公、あるいは男主人公の相手役である女キャラを指す場合、わざわざ「メインヒロイン」と言う場合すらある[3] [4]。この場合、メインヒロイン以外の女キャラはサブヒロインと呼ばれる。
 しかしながら、このような用法は一般化しているとは言いがたい。例えば、現代日本語書き言葉均衡コーパスで検索してみると、「ヒロイン」のヒット数が486件あるのに対して、「メインヒロイン」は3件、しかも、ネット上の文章しかヒットしないのだ。「サブヒロイン」に至ってはヒット数0だ。
 コーパスの検索結果を見た限り、「ヒロイン」という語は、相変わらず主人公、あるいは男主人公の相手役を指して使われるのが主流であると判断できる。ヒロインの意味拡大、そしてメインヒロイン、サブヒロインという用語はごく新しいものであり、いまだ広く受け入れられるには至っていないのだ。


 さて、ヒロインという語はヒーローの女性形なのだが、男主人公の相手となる女キャラがヒロインと呼ばれるように、少女漫画など、女を主人公にした作品では、主人公(ヒロイン)の相手となる男キャラはヒーローと呼ばれる。以下に用例を示す。

(12) 幼いころは泣き虫だったヒーローと、それをいじめるorいじめっ子から守るヒロイン。

バカの一つ覚えな展開*in 少女漫画板* 2004年)


(13) ヒーローが主人公に近寄るな的なことを言う

同上 2005年)

 だが、「ヒーロー」という語の用法はそれだけには留まらない。乙女ゲームなどでは、男キャラすべてがヒーローと呼ばれることもあるのだ。そして、最も重要な男キャラは「メインヒーロー」と呼ばれる。

(14)【ヒーロー】
英雄、主人公などのことを指すが、女性が主人公の作品では
主人公の恋愛相手をそう呼ぶことはが多い。
作品全体の男性キャラをヒーロー、女性キャラをヒロインと言ったりする場合もある。

◆女性向ゲー用語辞典◆ 2004年)


(15)その現状は、メインヒーローのトゥルーED攻略成功報告が無い事からも判るだろう。

◆女性向ゲー用語辞典◆ 2005年)

 すなわち、上で挙げたヒロインの意味拡大と同じ現象が、ヒーローという語についても起こっているのである。

 しかしながら、この用法も決して浸透しているとは言えない。例えば、現代日本語書き言葉均衡コーパスで検索してみると、「メインヒーロー」、「サブヒーロー」という語のヒット数はともに0である。また、グーグルで検索してみると、「ヒーロー」は「ヒロイン」の3倍近くヒットするにもかかわらず、「メインヒーロー」は「メインヒロイン」の約20分の1、「サブヒーロー」は「サブヒロイン」の約80分の1しかヒットしない。

 コーパスやグーグルの検索結果を見る限り、「ヒーロー」をすべての男キャラという意味で使う用法、そして、「メインヒーロー」、「サブヒーロー」という用語は、「ヒロイン」をすべての女キャラという意味で使う用法や「メインヒロイン」、「サブヒロイン」という用語よりもはるかにマイナーであると判断できよう。


現代日本語書き言葉均衡コーパスの検索結果
ヒロイン:486件
メインヒロイン:3件
サブヒロイン:なし

ヒーロー:752件
メインヒーロー:なし
サブヒーロー:なし


グーグルの検索結果(2015年1月12日)
ヒロイン:約11900000件
メインヒロイン:約723000件
サブヒロイン:約322000件

ヒーロー:約30800000件
メインヒーロー:約34800件
サブヒーロー:約4130件


用例出典
A:「うちのメイドは不定形」 静川龍宗:著 森瀬繚:原案 スマッシュ文庫
B:「萌え絵で巡る! クトゥルー世界の歩き方」 クトゥルー神話事典制作委員会:著 森瀬繚:監修 三才ブックス
C:「キャラクター・コレクション(上)」 安田均、グループSNE 富士見文庫
D:「テレビアニメ東京ミュウミュウ公式ファンBOOK」 なかよし編集部:編 講談社
E:「私がモテないのはどう考えもお前らが悪い! 公式ファンブック喪」 谷川ニコ:原作 スクウェア・エニックス
F:「ドラえもん [やっぱり! ”のび太”だね!! 編]」 藤子・F・不二雄 小学館
G:「リンカーン」 松岡洋子 講談社火の鳥伝記文庫
H:「赤と黒(下)」 スタンダール 小林正:訳 新潮文庫
I:「這いよれ! ニャル子さん」 逢空万太 GA文庫


[1] 藤子・F・不二雄作品データベース
[2] ギャルゲー用語大辞典「は」
[3] メインヒロイン (めいんひろいん)とは【ピクシブ百科事典】
[4] メインヒロインとは - はてなキーワード