チンギスの称号はカン?ハン?カーン?ハーン?

 あちこちで紹介されている上の記事だが[1] [2]、ここに1か所見すごせない記述が存在する。

「カン(ハン)」はトルコ系・モンゴル系遊牧民が用いていた称号で王や族長を表す。ここでやっかいなのがモンゴル語の発音では丁度「カ」と「ハ」の間の発音であることで、時代によってカに近かったりハに近かったりするが、近年の研究でチンギスが生きていた十三世紀は「カ」に近い音だったことがわかった。

 モンゴル語の/χ, x/が/q, k/に由来することは、別に最近わかったことではない。昔からわかっていた。「近年の研究で……」などというのは大間違いなのだ。

 例えば、ハルホリンは古都としてはカラコルムと呼ばれるが、これは以前から存在する読み方である(下図参照)。

Mongol
「国際情報大事典 PASPO」 学研 1992年 p.113

 また、モンゴル文字(13世紀成立)をラテン文字転写する場合、хに相当する文字はq, kとなるが、これは1974年発行のニコラス=ポッペの"Grammar of Written Mongolian"に書かれている転写法である[3]。なお、この転写法は、1983年発行の「現代モンゴル語辞典」(小沢重男:編著 大学書林)でも用いられている。

 前回の記事を書いた時も思ったが、昔からあるものを、あたかもついこの間誕生したものであるかのように語る人が多すぎる。


[1] いまや「チンギス・カン」が正式呼称に…元帝国も「大元ウルス」か?歴史と名称の話
[2] Yahooは元の新聞記事にリンク張ってくれませんかねぇ
[3] モンゴル文字