2014年4月17日5月6日の記事に引き続き、以下の5作品に登場する男の娘9人について、その喋り方を調べた。なお、Aは少年漫画、B~Dは「わぁい!」連載漫画、Eはライトノベルである。

 A:「ストップ!! ひばりくん!」全2巻 江口寿史 双葉文庫
 B:「ひかるtoヒカリ」1巻 竹林月 一迅社
 C:「ボクと僕」1巻 みなづきふたご 一迅社
 D:「ひめゴト」1~3巻 佃煮のりお 一迅社
 E:「アストロ! 乙女塾!」1~2巻 本田透 集英社スーパーダッシュ文庫

(2014年12月15日、「ボクと僕」2巻と「ひめゴト」4巻に関する内容を追記。)

作品登場人物名自称女性的文末表現備考
(イ)A大空ひばりぼくあり
(ロ)B双葉ひかるボクなし
(ハ)C泉純一郎なし
(ニ)C麻生二郎わたしなし あり
(ホ)D有川ひめなし
(ヘ)D有川かぐやかぐや・ボクありアニメでは「わたし」
(ト)D織田光永なし幼少時は「僕」
(チ)Dヒロなし
(リ)E藍原ヒカルなし

 女性的文末表現を用いているのは9人中2人3人と、相変わらず少数派にとどまっている。だが、その少数派の中に(ヘ)の有川かぐやが入っていることは注目に値する。この登場人物は、「ひめゴト」の主人公、有川ひめの弟なのだが、「ひめゴト」のスピンオフ「ひめゴト+」では主人公となっているのだ。スピンオフとはいえ、主人公である男の娘が(1)のような<女言葉>を使うという点は興味深い。そもそも演技や冗談以外に<女言葉>を使う男の娘は少数派であることに加え[1]、最近の漫画では、女キャラであっても主人公はあまり<女言葉>を使わない傾向にあるからだ[2]
 また、数は少ないものの、(2)のように「ボク」という自称を用いている場面もあり、「ねじれた役割語」[3]の使用が見られる。「ねじれた役割語」を使う女装キャラは少なく、近年の作品では有川かぐや以外に「リバーシブル!」の久我山がいるくらいだ[4]。しかし、久我山は大人であり、「男の娘」とは呼びにくい。有川かぐやは貴重なサンプルなのである。

(1) 何覗いてんのよバカッ (D:1巻 p.100)

(2) ボクのお仕事は女王様 (D:1巻 p.99)

(下線は引用者によるもの。)

 なお、アニメ版では自称が「わたし」で、しかも、ふざけた発話においてではあるものの、11話で終助詞「わ」を使うなど、原作以上に女性的な喋り方となっている。


 また、(イ)の大空ひばりの言葉づかいは、自称が「ぼく」である点を除いて、典型的な<女言葉>となっている。有川かぐやと同じ「ねじれた役割語」だが、女性的文末表現の使用頻度は有川かぐやより高い。

(3) なんだかんだいって結局つばめはぼくのこときらってるのよっ (A:2巻 p.248)

 この点については、「ストップ!! ひばりくん!」が1981年連載開始の古い作品であることを考慮する必要がある。つまり、当時は若年層の間でも女性的文末表現が用いられていたこと、さらに、当時は「男の娘」という概念がなく、大空ひばりはあくまでおかまキャラという扱いだったということだ[5] [6]

 まず1つ目について。
 水本光美「テレビドラマと実社会における女性文末詞使用のずれにみるジェンダーフィルタ」[7]によると、2004年に東京で行った調査では、「~わ。」、「名詞+よ。」などの女性的文末表現を使うのは、ほとんどが40代以上の女性であったという。1964年生まれ(2004年に40歳)の人は、1981年当時17歳。すなわち、当時は現実世界でも若い女性が女性的文末表現に代表される典型的な<女言葉>を使っていたと考えられるのだ。
 また、ステレオタイプの変化は大概現実の変化より遅いものだ。水本氏の論文から推測するに、1981年において、典型的な<女言葉>は高校生からは失われ始めていたと考えられる。だが、「ストップ!! ひばりくん!」に登場する女子高校生はほぼ全員が典型的な<女言葉>を使っている。読者にとっても作者にとっても、女子高校生が典型的な<女言葉>を使うことが当たり前と認識されていたことの表れと言えよう。

 続いて2つ目。
 今でこそ、男の娘は独立した萌え属性として認められ、単なるショタキャラ、あるいはおかまキャラなどとは一線を画したものとして論じられているが、当時はそんな考えはなかった。
 男の娘が独立した萌え属性として広く認知されるようになったのは2000年代前半。まだ10年かそこらしか経っていないのだ。もちろん、それ以前から男女問わず女装少年に萌える人はいたが、それでも、2000年代初め以前には必ずしも独立した萌え属性として認知されてはいなかったと記憶している。実際、2001年にも「男の娘」という語が使われていた例があるが、「娘」という字を使っていながら、それは女装少年ではなくハリー・ポッターを指したものだった[8]。ここからも、2000年代初め以前には女装少年とショタを区別する考えがなかったことが窺える。
 21世紀でこれだから、1981年の状況は推して知るべし。そもそも、当時は「ショタコン」という単語さえ誕生したばかりだったのだ[9]。大空ひばりが男の娘ではなく、ショタですらなく、おかまという扱いだったのも仕方のないことだ。
 現在でも、現実・虚構問わず、おかま、ニューハーフ、オネエ、ドラァグクイーン、女装家……などと呼ばれる人は、過剰なまでに<女言葉>を使う[1]。ましてや当時は女が<女言葉>を使うことが今よりも当たり前であった時代だ。おかまキャラ――女以上に女らしさをアピールしてしかるべきキャラ――である大空ひばりが<女言葉>を使うことになったのも、ある意味当然だったのだろう。


(2014年12月15日追記)

 「ボクと僕」の2巻では、麻生二郎が(4)のような女性的文末表現を使っている。

(4) うるさいわね 着てみないと分からないこともあるのよっ p.45

 また、「ひめゴト」4巻には、(5)のように、有川かぐやが真面目な発話で終助詞「わ」を使っている例がある。

(5) アンタが普通の格好で来たら 下僕たちが騒ぐのは最初からわかってたわよ p.50



[1] 男の娘の喋り方 その1
[2] スポーツマンガにおける読者層および登場人物の性によるジェンダー表現使用の異なり 松本絵里奈
[3] 自称詞「ぼく」と女性キャラクター ―いわゆる「ボクっ娘」の役割語的分析 冨樫純一、浅野総一郎
[4] 男の娘の喋り方 その2
[5] ストップ!! ひばりくん!
[6] ストップ!!ひばりくん!とは
[7] 「日本語とジェンダー」 日本語ジェンダー学会:編 ひつじ書房
[8] 現実の茄子姐を追いかけるスレ
[9] ショタコンとは