2014年6月30日のエントリーでも言及したが、「るろうに剣心」北米版アニメでは、「~ござる」という台詞が"that S V"と訳されているらしい[1]
 この"that S V"というのは、あまり使われない表現のようで、なかなか用例を見つけることができなかった。
 だが、先日、とうとう用例を見つけた。

"Incredible," said Kelkad.
Clete smiled. "That it is."

Illegal Alien, Robert J. Sawyer, Penguin Group (USA) inc., p.42

 カナダのSF作家、ロバート・J・ソウヤーの小説「イリーガル・エイリアン」の一節である。この部分は、日本語訳では以下のようになっている。

「信じがたいことだ」ケルカッドがいった。
 クリートはにっこり笑った。「いやまったく」

「イリーガル・エイリアン」 訳:内田昌之 ハヤカワ文庫 p.71

 "That it is."は「いやまったく」と訳されている。「そうでござる」などとは訳されていない。

 "That it is."という台詞の主、クリートは、いわゆる侍キャラのような、堅苦しい、時代がかった話し方をする人物ではない。むしろ逆で、南部方言まじりで愛想よく喋る、気さくな人物として描かれている。作中でも、「愛想はよかったかもしれないし、たしかに田舎くさい魅力はあった」「俗受けするタレント」(いずれも日本語版p.97)などと評されている。
 つまり、"that S V"という表現は、必ずしも、堅苦しく、時代がかったものとは言い切れないのだ。江戸時代でもすでに古風な話し方であった<武士言葉>[2]とは違うのだ。

 とはいえ、上に引用した部分を見てもらえばわかるように、クリートは"That it is."という言葉を相槌として用いている。一方、「るろうに剣心」の剣心は、自分の台詞の末尾に"that S V"をつけている。つまり、両者の用法には若干のずれがあるのだ。だが、あいにく資料が乏しいため、相槌としての用法と文末表現としての用法に何らかのニュアンスの違いがあるのか、それとも特に違いはないのかはわからない。


[1] 英語で「ござる言葉」を話そう! 北米版『るろうに剣心』でフタエノキワミ、アッー!
[2] 「江戸時代の国語 江戸語」 小松寿雄 東京堂出版