4月17日の記事では、「女言葉を使う男の娘は少数」と述べた。だが、男の娘――女装した少年キャラ――ではなく、女装した成人男性キャラは、当たり前のように典型的な<女言葉>を使うのだ。


高野海(「さざなみチェリー」)の台詞

(1) でも そんな私を皆 なかなか認めてくれなかった (「さざなみチェリー」 神吉 一迅社 p.98)


蒼(「ひみつの悪魔ちゃん」)の台詞

(2) きっとあなたの役に立てる (「ひみつの悪魔ちゃん」1巻 ゑむ 一迅社 p.150)


聖ストケシア学園校長(「リバーシブル!」)の台詞

(3) 私には幼なじみがいた (「リバーシブル!」2巻 すえみつぢっか 一迅社 p.147)


久我山(「リバーシブル!」)の台詞

(4) だってボクのパートナーは奥様じゃなくて旦那様だもん (「リバーシブル!」1巻 p.126)

(5) でも短期間にがんばってもダメよー (「リバーシブル!」2巻 p.28)

(6) 今が一番楽しい時期なのかしらねー (同上 p.31)


主人公の担任教師(「オンナノコときどきオトコノコ」)の台詞

(7) たぶん力になってくれると思う (「わぁい!」Vol.4 p.172)
 少年キャラが女言葉を使うことは少なかったのに、成人男性キャラとなると一転して典型的な女言葉のオンパレードとなる。

 ちなみに、これらの台詞の主だが、いわゆるおかまキャラのような、どう見ても男なのに過剰な<女言葉>を使っているキャラクターではない。外見はごく普通の成人女性であり、漫画内の風景にも自然に溶けこんでいる。

 余談になるが、(4)では、「ボク」という自称が用いられている。しかし、同じ人物が(5)、(6)では一転して「形容動詞語幹+よ」、「かしら」という女言葉を使っている。男性的な自称と女性的な語尾表現を併用する「ねじれた役割語」と言えよう[1]

 さて、なぜ女装した成人男性キャラは<女言葉>を使うのだろうか。理由は3つほど考えられる。

 1つ目の理由としては、男であることを隠すためというものが挙げられる。
 実際、「さざなみチェリー」の高野海や「リバーシブル!」の聖ストケシア学園校長が自分の性別を明かすシーンは、物語上重要なもの。あらかじめ男であることがわかってしまったら、せっかくの印象深いシーンが台なしになってしまうだろう。
 だが、これは少々弱い。なぜなら、上の台詞の主5人のうち、「リバーシブル!」の久我山と「オンナノコときどきオトコノコ」の担任教師の2人は、登場直後に自分が男であることを明かしているからだ。その他の3人については当てはまるかもしれないが、少なくとも「<女言葉>を使う女装した成人男性キャラ」全般に当てはまる理由ではない。

 2つ目は、これらの登場人物がまさに「成人」であるからというものだ。
 元々、現実世界では、「~わ。」、「~のよ。」などの典型的な女性的文末表現はあまり使われていない。特に若年層では、女性的文末表現はすでに死語になっており、終助詞の男女差もほとんど窺えないことが、各種調査で明らかになっている[2] [3]。すなわち、現実世界では<女言葉>は中高年層の使う言葉となっているのだ。
 この現実を反映してか、フィクションでも、若い女キャラは<女言葉>を使わないのに年輩の女キャラは<女言葉>を使うというケースは珍しくない。
 今回取り上げた女装した成人男性キャラも、成人女性キャラに準ずる存在として<女言葉>があてがわれたと考えることが可能だろう。設定上は男とはいえ、外見だけなら完全に成人女性キャラなのだ。成人女性キャラらしい言葉づかいをしても、読者に違和感を与えることはあるまい。

 そして、3つ目の理由は、これらの登場人物が皆脇役だからというものだ。
 前述の通り、典型的な<女言葉>は、実際の会話ではあまり使われなくなってきている。
 現実で使われなくなっている以上、フィクションで女キャラが用いる<女言葉>は、現実の反映ではなく、女キャラであることを示す役割語と考えるべきだ。そして、役割語度の高い言葉を使うのは、専ら脇役[4]。実際、最近の漫画においては、同じ女キャラでも、主人公より脇役の方が女言葉を使う頻度が高いという調査結果が存在する[5]
 実際、4月17日の記事で紹介した漫画・小説に登場する男の娘キャラ13人のうち、唯一典型的な<女言葉>を用いていた(ロ)のキャラクター――「オンナノコときどきオトコノコ」の水原あきら――は主人公ではない。この漫画には、水原あきらとは別に、千石雄祐という読者の自己同一化の対象となる主人公がちゃんと存在する。
 今回取り上げた台詞の主も、読者の自己同一化の対象にならない脇役。だからこそ、<女言葉>という役割語が用いられるのだ。


[1] 自称詞「ぼく」と女性キャラクター ―いわゆる「ボクっ娘」の役割語的分析 冨樫純一、浅野総一郎
[2] 「翻訳がつくる日本語」 中村桃子 白澤社
[3] 「日本語におけるジェンダー表現」 陳一吟 花書院
[4] 「ヴァーチャル日本語 役割語の謎」 金水敏 岩波書店
[5] スポーツマンガにおける読者層および登場人物の性によるジェンダー表現使用の異なり 松本絵里奈