屋名池誠「横書き登場」(岩波文庫)には、「文学・マンガの現在と将来」という節がある。そこでは、横書きの小説や短歌、俳句が複数紹介されているのだが、節タイトルにもある漫画についてはたった2行割いているのみである。既存の横書き漫画については言及すらしない。あたかも存在しないかのような扱いだ。

 ツイッターでは、明治大学准教授の藤本由香里氏と編集家の竹熊健太郎氏が、海外展開のために横書きの漫画を作ることについて議論していた。だが、このまとめを見る限り、藤本氏は国産横書き漫画に言及していない。辛うじて竹熊氏は別の所で既存の横書き漫画に言及しているが、その他の発言を見るに、現状では横書き漫画は例外的な存在ととらえているようだ。
 また、トゥギャッターのコメント欄を見ると、「横書き漫画は描きにくいだけでなく、読みにくいので、日本では商売にならない。」などという意見が目立つ。

 このように、横書き漫画は取るに足らない存在という前提で論じられることが多い。だが、その前提は正しくない。決して主流ではないが、横書き漫画はすでに無視できない地位を確立しているのである。
 大抵の漫画雑誌は縦書き・右綴じだ。そこに掲載される漫画も、当然の帰結として縦書きになる。だが、漫画は漫画雑誌に掲載されるばかりではない。漫画雑誌でなくとも漫画を掲載する雑誌はあるし、また、ハウツー本などにも導入として漫画を用いたものがある。そして、これらの本は必ずしも縦書きとは限らないのだ。

 いくつか実例を挙げてみよう。

 まずは、あんべようの「GIRLY☆PANIC」(連載時のタイトルは「Girlyパニック」)(図1)。掲載誌の「チャレンジキッズ」は横書き・左綴じの本であったため、漫画も必然的にそのようになった。そして、漫画を載せた横書き雑誌は別に「チャレンジキッズ」だけではない。例えば、かつて存在した「コペル21」や学研の「科学」などの子供向け科学雑誌も、文章・漫画ともに横書きであった。
 また、以前「小型全国時刻表」に連載されていた漫画、「イチからはじめる列車旅」も、掲載誌の体裁に合わせて横書きであった(図2)。
 雑誌連載以外のものとしては、前述のようなハウツー本の漫画(図3)、あるいは学習漫画などがある(図4)。

Girlyパニック
図1

イチからはじめる列車旅
図2

オンナノコになりたい!
図3

つるかめ算なんてこわくない!
図4

 実物を見てもらえればわかるように、決して読みづらいものなどではない。しかも、これらは少数の作家による実験作などではなく、ごく普通に流通し、広く受け入れられているものばかりだ。


図版出典一覧
図1:「Girlyパニック」 あんべよう … 「チャレンジキッズ」(1997年9月号) ベネッセコーポレーション
図2:「イチからはじめる列車旅 第14回~旅行編~」 時任奏 … 「小型全国時刻表」2011年12月号 交通新聞社
図3:「オンナノコになりたい! もっともっと、オンナノコ編」 執筆:三葉 表紙イラスト:ひねもすのたり 一迅社
図4:「まんがで攻略 つるかめ算なんてこわくない!」 監修:笠原乾吉 構成:藤野秋子 まんが:矢部道子 実業之日本社