アクセス解析を見てみると、「アイヌ語+○○」という検索語で来る人が多いことがわかる。

 だが、このブログにはアイヌ語の現状や背景についての記述はあったものの、言語そのものについてはろくに記述はなかった。そんなブログが検索結果上位に来るというのも情けないが、それはさておき、このエントリーではアイヌ語という言語そのものについて書いてみたい。

 さて、そもそもアイヌ語はどんな言語なのか。
 一言で説明すると、日本語とは全く異なる言語である。北海道弁の一種などではない。
 母音がアイウエオの5つだったり、語順がSOVだったりという些細な共通点だけを見て、日本語に似ていると早とちりする方がいらっしゃるかもしれないが、どちらも世界でははなはだありふれたものであって、日本語とアイヌ語ばかりに共通するものではない。

 アイヌ語の学習を始めて、最初に感じる日本語との隔たりといえば、やはり文法だろう。例えば、学習を始めたその日から、人称接辞という日本語にも英語にもない概念と向き合うこととなるのだ。実際、「エクスプレス」でも、第1課から早速ku=とe=という接辞が登場する。
 人称接辞とは、動詞の前後につけて主語や目的語を示すものである。動詞の人称変化という点だけ見れば、例えば欧州諸言語などにも同じようなものがみられるが、アイヌ語の人称接辞には、主語だけでなく目的語をも示す、自動詞と他動詞とでつく接辞が異なるという特徴がある。さらに、人称接辞には、名詞の前において所有表現を作るという機能もある。以下、例を示す。

 wakka ku=ku. 私は水を飲む。
 wakka ci=ku. 私たち(聞き手を含まない)は水を飲む。
 ku=ma. 私は泳ぐ。
 ma=as. 私たち(聞き手を含まない)は泳ぐ。
 tek 手
 ku=teke(he) 私の手

 wakka 水
 ku 飲む(他動詞)
 ma 泳ぐ(自動詞)
 tek 手

 以上の例を見ていただければわかるように、一人称単数を表す人称接辞は自動詞でも他動詞でもku=だが、一人称複数を表す人称接辞は、自動詞では=as、他動詞ではci=となる。また、tekは、所有表現においては所属形teke(he)となる。

 以上、アイヌ語の人称接辞について簡単に触れてみたが、詳しい文法についてもっと知りたい方は、5月19日の記事でお薦めした本などを見ていただきたい。

 さて、実際に行われはしなかったものの、北海道の小学校で、総合的な学習の時間にアイヌ文化体験のカリキュラムを設け、その中で簡単なアイヌ語を教えようというアイディアがあったらしい*。日本語の方言学習と絡めて……ということだが、そもそもアイヌ語は日本語と全く違う言語なのだから、地元の方言を聞く感覚で触れるというのは大分無理がある。


* 第4学年アイヌ文化学習案<総合的な学習>