学問がすべて

つまらないは正義

英語

Pizza


 「ピザ」と「ピッツァ」は違う食べ物である?

 昨年8月、漫画家のなぐも。氏のツイートが話題になった。



 「『ピザ』はアメリカ風で『ピッツァ』はイタリア風」という豆知識を絵つきで解説するツイートだ。4万回以上リツイートされたこの発言は、リプライなどと一緒にtogetterにまとめられ、また多くのコメントを集めている。





 だが、そもそも発端の豆知識が間違っている。納得してはいけない。「『ピザ』はアメリカ風で『ピッツァ』はイタリア風」などという事実はない。なぜなら、英語でもpizzaは「ピッツァ」(正確には/pi:tsə/)と発音するからだ。アメリカ風かイタリア風かで呼び名を変える根拠はない。続きを読む

itとxe


1. (nonstandard) they (singular). Gender-neutral third-person singular subject pronoun, coordinate with gendered pronouns he and she.

xe


英語ではheは男性sheは女性を指しますが、性別区分のない三人称としてxe(ゼ)が用いられるばあいがあります。

「LGBTってなんだろう?」 藥師実芳、笹原千奈未、古堂達也、小川奈津己 合同出版 p.12

 英語には、itという三人称単数中性(すなわちgender-neutral)主格代名詞がある。通常人間以外のものを指す際に用いられるitだが、「ジーニアス英和大辞典」によると、人間であっても、赤ん坊は性別不問の存在としてitと表すという。
 だが、gender-neutralを求める人が、heやsheの代わりにitを使う様子はないようだ。それどころか、xeなる珍妙な造語まで生まれる始末である。

 「珍妙」というのは単なる私の感想ではない。英語話者の多くもそう考えているらしいことは、xeという語の誕生が1971年とずいぶん昔であるにもかかわらず、いまだに一般的な辞書に載っていないことからも窺える。例えば、「オックスフォード現代英英辞典 第7版」も、「ロングマン現代英英辞典 4訂新版」も、「マクミラン英英辞典 第2版」も、「ジーニアス英和大辞典」(大修館書店)も、「新英和大辞典 第6版」(研究社)も、「グランドコンサイス英和辞典」(三省堂)も、英辞郎 on the WEBも、xeという項目を立てていない。また、ウェブリオでも検索してみたが、ウィクショナリー以外にxeを載せている辞書は見当たらなかった。
 基礎的な語を人為的にいじるのは不可能に近いから、xeという語が定着しないのは当たり前のことである。だが、誕生して何十年も経っていながら辞書に載っていないということは、定着どころか、ほとんど知られてすらいないと判断するしかない。まさに「珍妙」だ。

北米版「ワタモテ」翻訳ノートの深読み・勘違い


 今や日本の漫画が海外で翻訳出版されることは珍しくないが、北米版の漫画の巻末には、しばしば翻訳メモという名の註釈がつけられている。読者にわかりづらいであろうギャグや日本の文物などを解説するもので、大抵は正確なのだが、翻訳者の深読みや勘違いのせいか、時に誤りが見られる。

 ここでは、「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」(谷川ニコ スクウェア・エニックス)の北米版、No Matter How I Look at It, It's You Guys' Fault I'm Not Popular (Translation/Adaptation: Krista Shipley, Karie Shipley; Yen Press)の1~2巻の不適切な註釈を見てみたい。なお、引用文の訳は引用者によるものである。続きを読む

That S V

 2014年6月30日のエントリーでも言及したが、「るろうに剣心」北米版アニメでは、「~ござる」という台詞が"that S V"と訳されているらしい[1]
 この"that S V"というのは、あまり使われない表現のようで、なかなか用例を見つけることができなかった。
 だが、先日、とうとう用例を見つけた。

"Incredible," said Kelkad.
Clete smiled. "That it is."

Illegal Alien, Robert J. Sawyer, Penguin Group (USA) inc., p.42

 カナダのSF作家、ロバート・J・ソウヤーの小説「イリーガル・エイリアン」の一節である。この部分は、日本語訳では以下のようになっている。

「信じがたいことだ」ケルカッドがいった。
 クリートはにっこり笑った。「いやまったく」

「イリーガル・エイリアン」 訳:内田昌之 ハヤカワ文庫 p.71

 "That it is."は「いやまったく」と訳されている。「そうでござる」などとは訳されていない。

 "That it is."という台詞の主、クリートは、いわゆる侍キャラのような、堅苦しい、時代がかった話し方をする人物ではない。むしろ逆で、南部方言まじりで愛想よく喋る、気さくな人物として描かれている。作中でも、「愛想はよかったかもしれないし、たしかに田舎くさい魅力はあった」「俗受けするタレント」(いずれも日本語版p.97)などと評されている。
 つまり、"that S V"という表現は、必ずしも、堅苦しく、時代がかったものとは言い切れないのだ。江戸時代でもすでに古風な話し方であった<武士言葉>[2]とは違うのだ。

 とはいえ、上に引用した部分を見てもらえばわかるように、クリートは"That it is."という言葉を相槌として用いている。一方、「るろうに剣心」の剣心は、自分の台詞の末尾に"that S V"をつけている。つまり、両者の用法には若干のずれがあるのだ。だが、あいにく資料が乏しいため、相槌としての用法と文末表現としての用法に何らかのニュアンスの違いがあるのか、それとも特に違いはないのかはわからない。


[1] 英語で「ござる言葉」を話そう! 北米版『るろうに剣心』でフタエノキワミ、アッー!
[2] 「江戸時代の国語 江戸語」 小松寿雄 東京堂出版

和文の文字数と英文の語数の関係 その2

 3月24日の記事の続きである。

 前回、6つのサンプルについて、和文の文字数と英文の語数の関係を調べたが、今回は、さらに4つのサンプルについて調べた。なお、前回同様、文字数を数える際、句読点などは無視した。また、注釈にある行番号は、タイトルなどを無視し、本文の行数だけを数えたものである。

五稜郭タワーのパンフレットの一節
日本語:184文字
英語:100語

「moetan II」
日本語:192文字[1]
英語:128語[2]

「日本――その姿と心――」
日本語:198文字[3]
英語:97語[4]

「ハリー・ポッターと賢者の石」
日本語:193文字[5]
英語:67語[6]

 英語1語当たりの日本語の文字数の値は、上からそれぞれ1.84、1.5、2.04、2.88。以前調べた6つの結果と合わせると、平均値は約2.2となる。前回の結果と比べて、さして大差はない。
 今回の結果を元に計算すると、英語の母語話者の平均読解速度300語/分は、和文では約660文字に相当することになる。日本語の母語話者の平均読解速度は600文字/分。日本語の方が英語より速く読めるというのは間違いだということがよくわかる。


[1] 「moetan II」上 三才ブックス 附属小冊子p1, l1-7.
[2] 同上 本体p13.
[3] 「日本――その姿と心――」第3版 (株)日鉄ヒューマンデベロプメント 監修:新日本製鐵株式会社能力開発室 学生社 p30, l1-11.
[4] 同上 p31, l1-11.
[5] 「ハリー・ポッターと賢者の石」 J. K. ローリング 訳:松岡佑子 静山社 p7, l6-10.
[6] Harry Potter and the Philosopher's Stone J. K. Rowling, Bloomsbury Publishing Plc, p7, l26 - p8, l1.


まとめ
2013年シリーズ記事まとめ

最新コメント
最新トラックバック
首都圏は関東より広い (みれいの近郊生活(ITI))
関東地方≠都会
  • ライブドアブログ